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コンサルタントコラム -

「大介護時代の従業員支援策」
第5章:海外の介護支援の実情と事例 ~米国のEAPより~

ピースマインド・イープ(株)取締役副社長/国際EAP研究センター長、医学博士・国際EAPコンサルタント 市川 佳居

2015年11月10日 企業と社員のワーク&ライフ

市川 佳居 (いちかわかおる)

ピースマインド・イープ(株)取締役副社長/
国際EAP研究センター長、医学博士・国際EAPコンサルタント


EAP(従業員支援プログラム)の日本国内およびアジア太平洋地域のパイオニア。現職の他、国際EAP協会(米国)理事、NPO法人EAPアジアパシフィック円卓会議(シンガポール)の代表理事としてEAP普及に携わる。また、医学博士として働く人のメンタルヘルス、健康経営など側面から企業にアドバイス。日本の大学を卒業後、米国留学、ソーシャルワークの資格を取得後、外資系企業にてEAPの業務に携わる。2002年に起業。2児の母としてワークライフをこなす。


 ここまでは日本における介護支援の状況と対応策について解説してきましたが、本章では、海外の実情と事例(米国の従業員支援プログラム)をご紹介します。

米国の従業員支援 ~1990年代

 米国では、従業員支援プログラム(EmployeeAssistance Program、以下EAP)が1980年代から企業に浸透していますが、最初は、従業員のメンタルヘルスや心理的問題への支援が中心でした。1993年には、家族/医療休暇法(Family and MedicalLeave Act = FMLA)が成立し、出産、病気、介護などのために12週間の無給の休職が認められるようになりました。それを受けて、米国の企業では、家族/医療休暇法に基づく休暇制度を従業員に普及させると同時に、フレックスワーク制度などを導入してきました。さらに、優秀な従業員の採用や定着と、介護や育児などを行っている従業員のパフォーマンスの維持・向上のためにEAPを推進してきています。

従業員への介護支援のニーズに関するデータ

 米国企業の介護に関する従業員支援は、科学的なデータに基づいて実施されています。メットライフ社によると、介護中の従業員の欠勤(アブセンティーイズム)や職場での生産性低下(プレゼンティーイズム)による企業的損失は年間171億ドル~ 336億ドルといわれています(*7)。また、メットライフ社の研究チームがピッツバーグ大学と共同研究を行った結果、介護をしている従業員にかかる年間の医療費は134億ドルで、介護を行っていない従業員よりも、うつ病、高血圧、糖尿病、心臓病等の疾患にかかる率が高いことが分かりました(*8)。

 このような状況もあり、1990年代より、米国企業は従業員が抱える介護の問題に真剣に取り組み始めました。米国の優良企業は、従業員の介護の問題は職場の問題と捉えています。介護問題を軽減することにより、従業員は仕事に集中でき、健康を害する可能性も減り、元気に仕事をしてもらえ、それが企業の生産性向上に良い影響を与えると考えています。また、会社がフレックスワークなど、従業員の状況に臨機応変に対応することにより、当該従業員の忠誠心が高まるだけでなく、それを見ている他の従業員も自分が同じ立場になったときの会社の対応に安心し、忠誠心が高まります。では、実際どのような従業員支援が行われているのか見てみましょう。

ワークライフサービス

 EAPは、健康問題、家庭問題、アルコール、ストレス、経済的問題、ワークライフバランスなど、従業員が抱える様々な問題の解決を支援するプログラムです。企業はEAP会社に従業員からの相談業務を委託し、その企業の従業員は契約で決められた回数のカウンセリングやコンサルテーションを受けることができます。EAPでは個人的問題の適切なアセスメントとプライバシーの守られた短期解決志向のカウンセリングサービスを通じて、仕事の生産性に影響するあらゆる問題の早期発見と早期解決をサポートします。1990年代後半以降は、従業員の悩みの多様化に伴い、心理相談に加え、ワークライフサービスと呼ばれる介護・育児などの問題解決サービスが定着し始めました。 ワークライフサービスでは、専門スキルを持ったワークライフ・スペシャリストが、相談者のニーズを引き出し、相談者が必要としている情報が何かを的確にアセスメントし、課題の解決まで個別にサポートします。大手の米国企業は、このようなワークライフサービスをEAP会社や保険会社にアウトソーシングしています。そして、米国のEAP会社では、ワークライフサービスのなかで介護に関しては下記のようなことを行っています。

 1.医師や医療機関などとのやりとりを支援(ケース・マネジメント)
 2.在宅サービスのアセスメント
 3.介護サービスの選択肢を家族にコンサルテーション
 4.法律的、経済的相談
 5.資産管理・遺言管理

 日本ではこれらの業務を介護支援専門員(ケアマネジャー)が行っていますが、米国では企業が従業員のために、これらのサービスを提供しているというのが特徴的です。

介護に関する従業員セミナー

 米国の企業の介護に関する社内セミナーには、主に2 種類あります。1 つは、介護中の部下を支援しモチベーションを高め、最終的に会社の業績目標に到達させるための管理職向けセミナー。もう1 つは、介護をしている従業員やこれから介護を行う従業員への情報提供セミナーです。

(1) 管理職へのセミナー
 ・ワークライフに関する概要:
   働く人のワークライフのニーズやバランスのとり方について学び、部下のコーチングやマネジメントに役立てます。
   また、介護中の従業員への会社の責任およびビジネスインパクトについても学びます。
 ・フレキシブルな働き方のできる職場の作り方: 
   従業員1 人ひとり、やる気の出る働き方は違います。従業員の家庭でのニーズやライフスタイルに応じて、
   就業規則や業務の性質に照らし合わせて、働きやすい職場の作り方について、事例を通して学びます。
 ・有給・無給休暇を従業員のニーズに応じて活用する方法: 
   主に人事の専門家からの講義を通して、介護休職の制度について学びます。
 ・従業員のニーズへの対応方法(事例): 
   介護ケア中の様々な実際の事例や架空の事例を設定して、それぞれの管理職がグループディスカッションを行い、
   対応方法を検討します。

(2) 情報提供セミナー
 米国の企業では会社が主催してブラウンバッグランチ(昼食を茶色い紙袋に入れて持参することが多いことに由来)という講義を開催することがよくあります。主に昼休みに持参したランチを食べながら1 時間ほど専門家の講義を聴講します。介護に関しては下記のようなトピックがあります。
 1.認知症とは:予防、治療、ケア
 2.難聴について:予防、治療、ケア
 3.高齢者のADL(Activities of daily living:日常生活動作)について
 4.被介護者への共感トレーニング:
   役割反転し、自分がハンディキャップを負った状態になり(目隠しなどをして)、周囲の人に頼る気持ちを知り、
   被介護者への共感を身につける
 5.介護者のストレス:ストレスマネジメントの方法を学ぶ
 6.在宅介護、在宅看護について:種類、選び方
 7.施設について:種類、選び方

米国の優良企業事例

 ペンシルバニア大学のウォートン・ビジネススクールでは、1991年にワークライフ統合プロジェクトを立ち上げ、現在もワークライフ問題に関する研究、企業のリーダーへの教育、コンサルテーションなどを行っています。以下にプロジェクトが公開しているワークライフの優良企業の例をご紹介します。これらの事例はリーダーシップに関するモデル例になっていますので、介護制度を作った後、職場のリーダーにどのように行動してもらうかの参考になります(*9)。

(1) アライド・シグナル社
 1993年から様々なワークライフ支援プログラムを社内で展開し、従業員による会社の福利厚生に関する満足度は2 年で13 % 向上(1995年:50 % ➡1997年:63%)しました。リーダーのモデルケースとして、スペシャリティワックス&アディティブグループのリーダーのサンディ・リン氏は、部下との対話、部署の従業員によるフォーカス・グループなど、様々なコミュニケーションを通して、部下の仕事と生活の両方に理解と興味を示すことにより、800人が所属するグループ従業員のやる気を向上させました。

(2) アーンスト・アンド・ヤング社(E&Y)
 世界有数の会計事務所であるE&Yは、従業員のプライベートの生活に関するプログラムを充実させることにより、優秀な人材の採用に役立てるだけでなく、優秀な人材の流出をも防ぐことができました。1994 ~ 2001年のCEOのフィル・ラスカウェイ氏は、自ら指揮をとって、ワークライフに関する様々な施策を実行させました。ラスカウェイ氏はリテンション・オフィス(Office for Retention :以下OFR)をCEO直轄で設置し、従業員が働きやすい職場を作ることによって人材流出を防ぐことを目標とするあらゆる施策を行いました。OFRは革新的なワークライフを職場で実践させ、例えば、勤務時間や勤務する曜日の調整、自分のワークライフに関して顧客とオープンに話し合わせ、従来のコンサルタントとクライエント関係を再構築するということなどがその例として挙げられます。また、OFRはライフバランス・マトリックス(図表5 )を作成し、E&Yのライフバランスの知識継承とノウハウの蓄積に役立たせました。



◆◇◆◇◆ 介護従業員対応準備度チェックリスト ◆◇◆◇◆

 今までの章で、我が国の現状、人事制度や施策の工夫例、米国の事例などをご紹介してきました。最後に、まとめにかえて「介護従業員対応準備度チェックリスト」をご紹介します(⇒チェックリストはこちらから)。こちらのチェックリストを活用いただき、貴社の施策をさらに工夫し、仕事と介護の両立ができる従業員を増やすことにつながれば幸いです。

* 7 The MetLife Mature Market Institute( MMI) and the NationalAlliance for Caregiving (NAC). Metlife Caregiving CostStudy: Productivity Losses to U.S. Business 2006
* 8 The MetLife Study of Working Caregivers and EmployerHealth Care Costs. (https://www.metlife.com/assets/cao/
mmi/publications/studies/2010/mmi-working-caregiversemployers-health-care-costs.pdf.)2015/ 6 /11アクセス
* 9 University of Pennsylvania. The Wharton Work/LifeIntegration Project.: Best practices.(http://worklife.
wharton.upenn.edu/research/skills-for-integrating-work-andlife/)2015/ 6 /11アクセス
*10 University of Pennsylvania. The Wharton Work/LifeIntegration Project.: Best practices.(https://workfamily.sas.
upenn.edu/sites/workfamily.sas.upenn.edu/files/imported/pdfs/ernstyoung.pdf)2015/06/27アクセス

(『月刊 人事マネジメント』 2015年8月号 掲載)

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